人間関係やビジネスや創作活動など、自分を表現する様々なシチュエーションにおいて、相手の記憶に残るような強い印象を与えるにはどうすれば良いですか?

「なのに」で考えてみてください。

 

何かしらの文脈の中に「なのに」を入れて、全体が成立するように組み立てるんです。

「なのに」とはつまり、相反する要素の両立ってことですよね。

例えば説教してるのに満面の笑みだとか、幸せの映像なのにデスメタルが流れているとか、そういう用途での「なのに」。

不気味じゃないですか。その「なのに」が作る相反する違和感とか、「何かがおかしい」っていう不自然さ、そういったものって経験したことない感覚ですよね。

普通の感覚じゃないわけです。

笑いながら怒られたりすると怖いですよね。得体の知れない感情が生まれます。それが強い印象として、心に刻み込まれるんですね。そしてそう言った得体の知れないものは次に何が起こるかが予測できません。殴られるかも知れない。

予測できない事に対しては、細胞がそれに対して注意を払います。細胞レベルで注意を向けたものは、やっぱり印象が強く記憶にも残りやすいんです。

これはアート作品とかでよく使われている手法なんですよね。だからそれの応用みたいな感じです。

例えば、音楽とか映画とかいろいろあるんですけど、とりわけ映画とかアニメとかの映像関係に多いんですよ。

具体例を挙げると「ドラゴンタトゥーの女」って映画があるんですけど、暴力的なシーンで、エンヤの「Orinoco Flow」が流れるんですよ。

BGMと映像の違和感が凄すぎて、よくわからないけど何か恐ろしいことが起きる事は確実に分かる。とても印象深いんですよね。

実際に強い印象が残っていたので、僕がこうして具体例として出してるわけですから。

例えばそういった殺戮シーン的な場面で流れる音楽がマリリンマンソンとかスリップノットだと普通じゃないすか。「今から血ぃ出るな〜」としか思わないじゃないですか。

そこであえてシーンや状況とは無関係の、ある意味で真逆に位置するような音楽を流すことによって、怖さを一層引き立てるんですよね。

コントラストなんですよ、ポイントは。

これを塩キャラメル効果と僕は言っています。

塩キャラメルって、塩の塩辛さがキャラメルの甘さを引き立てて、キャラメルの甘さが塩の塩辛さを引き立てる。相乗効果で優勝してるわけじゃないすか。

相反する要素っていうのがお互いを引き立てあって、本来のポテンシャル以上の価値を生み出している。

塩だけで舐めてもまぁおいしいです。キャラメルもキャラメルだけで食べて十分においしいですよね。でも、全く正反対のその二つをあえて内在させることで、よりお互いの良さが引き立つってことですね。

この考え方ってなんでもいけると思うんですよ。食べ物、表現技法、人間関係のコミュニケーション。

めちゃくちゃ見た目ヤンキーやのに、すごい丁寧な接客するコンビニのレジのアルバイトみたいな感じです。必要以上に良い子に見えてしまいますし、印象に残りますよね。一生覚えてますし、なんならちょっと好きになりかけてます。

僕たち人間は基本的に偏見に満ちた生き物ですからね。先入観をいかに裏切る事が出来るか、それが強い印象の形成に関わってくると思うんです。

 

音楽でもあります。

音楽めちゃ暗いのに歌詞がめちゃ明るいとか。逆に音楽めちゃ明るいのに歌詞がめちゃ暗いとか。

皮肉ですよね。そうなんですよ、皮肉なアプローチってすごく印象に残りやすいんですよね。想像力が掻き立てられますからね。

だって音楽めちゃ暗いのに歌詞がめちゃ明るかったら、この歌詞は表面的なもので、本当は何か別のメッセージが潜んでるんじゃないかとか、やけに深読みするじゃないですか。で、なんの意味もないのに掲示板とかでアレコレ推察するんですよ。なんの意味もないのに。

悲しい別れの曲なのに、明るいとか。ありますよね。

そういうのがいいんじゃないかなぁと。印象に残りやすいと思いますよ。

 

嬉しい楽しいとか、美しいとかそうじゃないとか、まぁいろんな感覚があるわけなんですけど、結局は真逆の要素があるからこそ、その感覚の概念が存在するわけです。

その比較の元となるものを『参照点』と言います。参照点をこちらが用意してあげることで、相手はそれと比べてどうかという判断を下します。

『参照点』については、行動経済学者であるダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー(上)あなたの意思はどのように決まるか?』で詳しく説明されています。

参照点に左右されることは、感覚や知覚ではきわめて当たり前のことだ。同じ声でも、それまでが囁きだったか怒鳴り声だったかによって、ひどくうるさく感じることもあれば、小さく感じることもある。うるささの主観的な感じ方を予測するためには、音のエネルギーの絶対値がわかっているだけでは不十分で、自動的な比較の基準になるもとの音の大きさを知っておく必要がある。同じように、紙の上に置かれた灰色の紙片が暗く見えるか明るく見えるかは、背景色を知らなければ答えられない。(p94)

ファスト&スロー(下)あなたの意思はどのように決まるか?

つまりその参照点を真逆のものにしてあげることで、インパクトが強くなるわけです。

たとえば美しいって概念なんて、相対的に周りと比べてどれだけ美しいかってことじゃないですか。

美しくないもの、もしくは汚いものがあるからこそ、美しさが測れるわけです。ある一つのものを構成する要素の全てが美しければ、それはもはや「普通」なんです。

世界中のものが全て同等に美しければ、美しいって概念は存在しないわけですよね。だからそれを作品単位だったりとか、個々の対人関係レベルで意識して強調していくって感じですね。

ブスが居るからイケメンと美女というものが存在します。だからあなたはブスを合コンに連れていくんですよね。僕はそんなことはしません。相対的に自分を美しく見せたいから、そうするんですよね。僕はそんなことしません。

言わずと知れた人間心理のメカニズムを解明した名著『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』にはこのような一文があります。

何かのパーティで最初に魅力的な人と話をして、次に魅力的でない人に会うと、その人は実際以上に魅力がないように見えてしまうものなのです。(p22)

影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか

そんな感じで、対称的なものを用意することで印象っていくらでも作っていけるので、やってみてもらえればいいかなと思います。

まぁ要約すると、

どんな印象を与えたいかを決めて、それと真逆の要素で周りを固める

って感じですね。

これを『知覚のコントラスト』と言い、『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』では以下のような具体例が示されています。

まず冷水、常温の水、お湯が入った三つのバケツの前に学生を座らせます。そして片手を冷水に、もう片方の手をお湯につけさせてから、常温の水に両手を同時につけさせます。そのとき学生の浮かべる愉快げな困惑の表情から何が起きたのかわかります。両手を同じ容器に入れているのに、冷水つけていた方のては水が熱い湯のように感じ、最初にお湯につけていた方の手は水が冷水のように感じているのです。重要なのは、同じもの(今回の例では常温の水)であっても、その前に起こった出来事次第で、まったく違ったものに思えてしまうという点です。(p23)

影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか

だからもし、苦しいことを相手に伝えたいのであれば、苦しそうな顔をして涙を流すよりも、笑顔で涙を流した方が効くんじゃないかなと思いますよ。

「え?なんで笑ってんの?」って思いますから。心がざわつくでしょ。

 

人に強い印象を与えたければ「なのに」をつける。

つまり自分自身、感情、料理、文章、アート、その他なんでも、引き立て役を用意すれば良いのです。

ぜひお試しください。


おすすめ

影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか

ある男性がファッショナブルな店に入って、三つ揃いのスーツとセーターを買おうとする場面を考えてみましょう。もしあなたが店員だとしたら、その客の財布の紐を最大限ゆるめさせるために、スーツとセーターのどちらを最初に見せるでしょうか。

ページをめくる度にニヤけるような気づきやアイデアが手に入ります。これほど面白い本はなかなかないです。

p21の紳士服店の話や、p110のオモチャ屋さんの話なんかは特にお気に入りです。

ファスト&スロー(上)あなたの意思はどのように決まるか?

ある文章なり発言なりが本当だと言う事を、あなたはどうやって知るのだろうか。理路整然としているもの、あなたの日頃の考えや好みを連想させるもの、あなたが信用している人や好感を抱いている人から発せられたものなら、あなたは認知しやすいと感じる。(p119)

30ドルを確実にもらうか、80%の確率で45ドルの方がよいか?

僕たちが意思決定を行うときに、直感的思考と熟考的思考がどのような働きをするのかについて書かれた本です。こう聞くと難しそうですが、読みやすい。そしてめっちゃ面白いです。

これもやはり、ほぼ全ページがドッグイア(角を折るやつ)状態。読みすぎてボロボロです。

断言します。必読書です。